仮面ライダー生誕50周年を記念して作られた「仮面ライダーBLACK SUN」
「仮面ライダーBLACK」のリブートというよりは基本的に名前を借り全くの別物であり、印象的には「仮面ライダーアマゾンズ」にも近い要素がありました。
全体的にストーリーも陰鬱かつ重苦しく、劇中でも血がドバドバ出てくるし、人は容赦なく死んでいく点などもアマゾンズを彷彿とさせる仕上がり。
「種の繁栄と生存」をテーマにそれぞれ別視点にいる主人公がそれぞれ摩擦しながら二つの正義がぶつかり合って最終的に激突していくという構図を見るに
「ああ東映ってこういうの作りたいんだな」
ってヒシヒシと感じさせられました。
・見た印象
今作では「怪人が現代社会に公の存在としてありながら、迫害される対象」
「自由を訴える怪人たち」「怪人を根絶やしにしようとする人間」「怪人を政治目的に利用しようとする政府」
「人間を根絶やしにして怪人だけの世界を作る」など様々な視点からのドラマが交錯しあい、やがて一つになっていく
群像劇のような作風であり、個人的にはとても好きでした。
話の所々で「50年前になにがあったか」が差し込まれ、少しずつ謎が視聴者に開示されていく作りは
「仮面ライダーキバ」を思い出しましたね。
・ストーリー
肝心のストーリーですが、あらすじやPVを見た時点で色々察せれる物があり、案の定TLでも様々な賛否を呼んでいましたが個人的に政治的思想がどうとか役者がどうとか、自分は仮面ライダーにエンタメ作品として以上のものを求めていないのでここではこれ以上触りませんし、それで現実世界とどうこうという話に触れません。
上述では色々述べましたが今作のストーリーラインとして「怪人との共存を願って世界中に訴えかけていた少女:和泉葵」
がある日、彼女の持っている「キングストーン」を巡り命を狙われて「くたびれた裏社会のおっさん:南光太郎」に守られるというもの。
この骨組みに様々な思想が交錯しあっているわけです。
「戦い方を教えて」と言われて実践的なやり方を教えたり、バスを改造した宿泊で料理したりなんかもあったり。
最初見た時はまるでヤクザ映画のようなノリを仮面ライダーで見ることになるとは。と驚きもありました。
葵は雀怪人、俊介との交流もあり国連の場でも高校生でありながら活動家として注目を浴びている少女でした。
しかし、大きな運命の奔流に呑まれて段々と彼女の言う「怪人との共存」がいかに難しいか。自身も中盤でカマキリ怪人に改造されてしまう。
そしてシャドームーン、信彦率いる怪人たちのクーデターに巻き込まれ、次第には怪人の力を受け入れだし最終回では……
ふたりの思い出のワンシーンを重要なシーンで再現されたら弱い……。
・バトルアクション
アマゾンズほど血飛沫舞いといったところは多くありませんが、やはり人体が飛ぶ飛ぶ。
刃物を肉体に当てれば火花なんか出ないよ、切れるに決まってんじゃんとばかりに首やら腕やら吹っ飛びました。
特に体の一部をもぎとる引きはがすと言ったシーンも多く、自分の足をもいで即興で武器を作り上げる。
これはアマゾンズにはないところでした。
そして戦闘シーンになれば決まってかかる曲は強烈に耳に残りましたね……一種の処刑用BGMともいえるかもしれない。
さらにポイントとしては主題にもなっている仮面ライダーBLACK SUNが中々出てこず、最初光太郎は黒いバッタ怪人として戦っていました。
が、中盤で葵を攫い改造手術を施し戦わせた怒りから「二段変身」という体で仮面ライダーに変身します。
「真・仮面ライダー」で没になった設定が拾われたような気もしますね。
・名キャラクター
ビルゲニアは序盤敵として登場し、葵を怪人に改造し彼女の両親を攫って誘拐したり序盤をけん引したヘイト役でした。
50年前の事件でも彼の言い分も真っ当なところはあると言えど、ゴルゴムが決別するきっかけを作ったりと重要な役どころでもあります。
が、その件で光太郎の怒りを買い片腕切り落とされてから立場が悪化していく中でも創世王の後継者に立候補する際は臆した癖に弾かれた三神官を煽ったりと忙しいキャラクターになりました。
自分の信じていたものに悉く裏切られ、最終的には因縁の葵との奇妙な友情にも似た関係を築いた9話はこの作品を語る上で欠かせないシーンになったと思っています。
・迷?キャラクター
陰鬱としたストーリーの中でも、クジラ怪人と蝙蝠怪人、コオロギ怪人たちの存在は癒しだったのかもしれない。
ああいうどっちつかずというか、どんな世界になっても図太く生きていくだろうというああいう三枚目キャラ集団は個人的にも好みです。
9話の蝙蝠とニックのやりとりは最後の落ち着きどころというかよりどころと言えたかもしれない。
正直あのドレッド、葵を売ったあたりで死ぬものだとばかり……
そして最終回の散々ヘイト買い続けた総理を見事討伐という個人的にアマゾンズで水澤母や野座間会長の件ですっきりしなかったのを見事やり切ってくれたと思いました。
笑ってはいけないでしょうが、デモ隊のリーダーや総理役の方の怪演は圧巻の一言でシリアスなシーンでもついにやけてしまいました。
最終回の「俺のペニス」で笑わない方が難しい……
・名シーン
「さぁ泣いても笑ってもあと一話だ。ブラックサンとシャドームーンの決着は……?」とワクワクしながら開いたら
開幕、原点版BLACKのオマージュが炸裂。「やりやがったな!」という自身の叫びの中、「君は見たか愛が真っ赤に燃えるのを!」のあの音痴てつをな曲が流れたシーンには笑いをこらえられなかった。
政治的思想がどうかというよりも、スタッフは「仮面ライダーBLACK」が好きなんだという熱意。「そのうえで光太郎と信彦、二人の戦いを現代社会に置き換えていったら
こうなった」それに尽きるのではないでしょうか。
・最後に思ったことをザーッと箇条書き
・自分は総理の存在は「話を動かすヘイト役」デモ軍団のリーダーは「信彦が考えを改める契機」という舞台装置以上の感情は感じていない。
・光太郎も信彦もそれぞれ自分の正義をぶつける裏で、ドンドン状況が悪化して最終的に創世王が消えただけでそれ以外のことは何も変わらないビターなエンド……
・どうでもいいけどやっぱり38分から後はいらなかった
・葵の悪い奴がいる限り戦うと、光太郎の意思を継いだかのような流れにしてなんで50年前のリトライのようなことしてるのか。
結局人間は根本的には変らないということの暗喩なのか、最後にしこりを残しておく作品を意識したかは分からないけれど、演説シーンやラストの別れのシーン見て「えぇ?」というせっかくの感動シーンの余韻がぶち壊されたようにも感じてしまった。
・主題歌「Did you see the sunrise?」は本当に格好良く切ない感じのメロディーで作風と非常にマッチしたいい曲でしたね
「この闇に答えはない。永遠に抗って」まさにBLACK SUNの話そのものだったように感じます。
・最後に今後の仮面ライダーの発展と2023年公開予定の「シン・仮面ライダー」の成功を祈って。
・基本リアリズム重視で作ってるのに劇中で「キングストーン」とか「三神官」とかのファンタジックな用語が出てくるとふいに現実に引き戻される感覚...
東映の会議室でもないのに大の大人たちが真面目な顔して「キングストーン」「創世王」「ヘヴン」とか言ってるのはシュールな笑いを誘う。
・ヘヴンは作中で何度も実食シーンありましたが実際にはどんな味したんでしょうね。ヘルヘイムの果実は「味のない寒天」だったらしいですが
・このページ描いてるうちにアマプラの自動再生機能が勝手に「仮面ライダーギーツ」に飛ばしたんですけど、なんか実家に帰ってきた感あってそのまま一話を落ち着いてみてた。
・思えばアマゾンズはベルトから武器出て来たりベルトが騒がしかったり「夜のニチアサ」感があったけれど、今作はそれすら廃したまさにブラックな作品だったと感じられる。